เข้าสู่ระบบ「千秋が教えてくれたんです。お父さんの作ってくれる、紙飛行機が好きだったって。折る形によって遠くまで飛ばすことのできる紙飛行機にすっごく夢中になったからこそ、真剣に学んでみたくなったらしいです」「それって……」「俺のことを気にしてるくせに、無理して嫌いな振りをしてみたりと、素直じゃないところがありますからね。千秋は結構、照れ屋ですから」 出逢った頃の千秋を思い出して、苦笑いしながら告げてみた。 大学進学についてきっと反対されるのが分かっていたこともあり、なかなか伝えられなかったのもあったんだろう。「千秋がそんなことを……。俺がきっかけを作っていたなんて」「俺からも質問していいでしょうか?」 告げられた真実について相当驚いたのか、口を開けっ放しにしたまま横にいる俺の顔を見上げる。「どうして、自分のお子さんを作らなかったのかなと思いまして」「ああ……。それか――」 先ほどとは声のトーンが明らかに違う感じはやはり、聞いてはいけないことだったのだろうか。「本当は家内が出産してから、ふたりを追い出そうと思っていたんだ」「えっ?」「中村に……千秋の父親に押しつけられた形で会社と家内を手に入れることになったのは、自分の本意じゃないものだから」 沈んだ声で告げられた真実は、おばあさんから聞いたことに影を落とすものだった。「確か、会社の不正と引き換えだったとお聞きしています」「ああ。どうやってそれを調べたのか。ヤツが俺を脅すには、もってこいのネタだった。中村に土下座されなくても、二つ返事で飲み込むしかなかったさ」「嫌々引き受けたのに、どうして――」「会社と結婚は書類上の手続きで済ませたものだったが、あれは――千秋は違った。元気に生まれてきてこの手で抱いた瞬間、自分が守らなければと思うほどに小さくて……。とてもか弱くて」 そのときのことを思い出したのだろう。しげしげとご自分の両手を眺める。「この手で放り出したら、きっと生きてはいけないと思った。そう考えたときに俺の顔を見て、小さな千秋が笑ったんだ」「さぞかし可愛かったでしょうね」 今だって十分に可愛いのだから、赤ちゃんの頃なら尚更だ。「自分で育てると決めてからは育児書を読んで、千秋の笑顔が新生児特有の生理的微笑だと分かっても、可愛くて仕方がなかった」 血が繋がっていなくても、こうして大切
「千秋の職場なら、ここから歩いて十分くらいのところにあるんですよ」 並んで歩きながら告げると、あからさまに顔を横に背けられてしまった。 こんな態度をとられるのは、いた仕方ない。前回千秋のことをかっさらった状態で実家を出てきたのだから。「小さな島ですが、農業も漁業もそれなりに盛んなんです。ですから、千秋の仕事が大変みたいです」「仕事をしているところを見ていないというのに、どうして大変だっていうのが分かるんだ?」 いきなりなされた疑問に、苦笑を浮かべた。何はともあれ、食いついてくれて良かった。「確か従業員の五名で、三百五十人分の書類を捌かなければならないそうですよ。これって相当大変ですよね」「…………」「一緒に仕事をしている方が揃って優しく教えてくれるから、楽しく仕事ができると言ってました」 千秋からの情報を、ちょっとずつお父さんに知らせてみる。表情は相変わらず硬いままだが、何も知らない状況よりはいいだろう。「折角紺野さんが島にやって来たのに、仕事の関係で抜け出せなくて、すごく残念がっていました」「勝手に見て、直ぐに帰ると伝えてある」「逢いたいって言ってました。逢って話がしたいって――」 本当の親子じゃないと分かってから、千秋なりに何か思うことがあるらしく、それについて俺とたまに話し合うことがあった。だからこそ千秋の気持ちを何とかして伝えてあげたいと考えて、この台詞を告げてみたのだが。(――表情が相変わらずで、何を考えているのか読めやしない)「ああ、もう少ししたら建物が見えてきますよ。銀行の隣にあるレンガ色の建物が、千秋の職場です」 リアクションの薄さに落胆しつつも、微笑みを絶やさず建物に指を差した。 一本道だが一応メインストリートになる道路に、島にとって主要な企業が並ぶように建てられていた。なのでスマホの案内がなくても、迷うことがないのである。 五十メートルくらい手前で立ち止まり、そこからじっと建物を眺める姿にあえて声をかけず、一緒になって佇んでみた。(本当は中に入って、千秋の顔を見たいだろうな――) ま、これは俺の願望でもある。何かに頑張っている千秋は、食べてしまいたくなるくらいに、とても魅力的だから。「あれは……何か言っていたか?」「あれ?」 きょとんとして自分よりも背の低いお父さんを見下ろしたのだが、眉根を寄せたま
*** 結局、到着時間ギリギリに船着場に辿り着いた。 慌てて走ったせいで髪はぐちゃぐちゃ、額には汗が滲んでいる始末。真っ白いシャツに汗染みができていないかを注意しつつ、手櫛で髪の毛を整えた。(――まるで、遅刻間際に現れた彼氏みたいだな……) キャメル色の綿パンに泥が跳ねていないかをチェックしていたら、目の前を人が横切って行く。到着したフェリーから、乗客が降りはじめたようだ。 途端に心臓がばくばくと駆け出していくとともに、滲んでいた額の汗がつーっと流れ落ちた。手の甲でそれを拭ってから、両手で頬をばしばし叩いて気合を注入する。 千秋に頼りにされているんだから、怖気づいてる場合じゃない。 ゴールデンウイーク前後は、フェリーの乗客がいつもよりも多い。島の中央にある小高い丘に綺麗な花を咲かせる植物があり、それを見にやってくる写真家や観光客がいる。 そんな大勢の乗客の中から、目を凝らして千秋のお父さんを探した。第一声はどうしようかなんて、考えている暇はまったくない。 すると乗客がまばらになる最後の方になったときに、ゆっくりとした足取りで島に降り立った姿を確認した。何とか心を落ち着けながら、素早く駆け寄る。「紺野さんっ!」 声をかけた俺を、スマホを片手にチラッと見るなり眉間にシワを寄せて、あからさまに渋い表情を浮かべた。「ようこそ!! 今日はお天気が良くて、最高の観光日和ですね」「…………」「スマホでわざわざ調べなくても、ご案内しますよ。遠慮なく行先を仰ってください」 お父さんは俺の声を無視して、小高い丘に向かっていく乗客とは反対側の道を、無言で突き進んで行ってしまった。 行き先はきっとあの場所だろう。
***『何はともあれ、よろしくお願いします。穂高さん、頼りにしていますから』 元気よく告げた千秋が、唐突に電話を切った。仕事中にかけているから、慌てて切ったのかもしれないな。 ぼんやりとそんなことを考えてスマホをテーブルの上に置き、頬をばしばしと叩きながら自分なりに気合を入れてみた。 頼りにしていますから……なんて言われてしまったら、肩に力が入って変なことを口走る恐れがある。 だからこそ、気合を入れてみたのだが――前回、千秋を攫う形で家を出ている手前、正直お父さんには顔を合わせづらいのは確かだ。 大事な息子を奪った俺が船着場で待っていたら、間違いなく不機嫌になるであろう。そんな顔色を窺いながら話しかける第一声は、何がいいだろうか。(考えたいのは山々だが、とりあえず顔を洗ってすぐに着替えなければ!) 島に来るフェリーの数は多くないため、到着時間が頭にしっかりと入っていた。慌てて現在の時刻を確認してみたら早々に準備しないと、お父さんに逢えなくなってしまう時刻だった。 ばばっと顔を洗い、手早く歯磨きして洗面所を出てから着替えるべく、洋服を入れてある押入れの前に赴いたのだが、思わず佇んでしまった。 勿論、ホストをしていたときの服なんて着ない。しかし、わざわざスーツを着て出迎えるのも堅苦しい感じがする。どこまできちんとすればいいのだろうか? そんなことを考えてる余裕なんてないのに適当にできないのは、お父さんにこれ以上、嫌われないようにしなければならないから。分かっているのに決めきれないなんて……。 着ていく服装に、今までこんなに悩んだことがなかった。そんなことで慌てふためく自分を、バカだなぁともうひとりの自分が見ている。 千秋と付き合ったお蔭で、貴重な体験ができたといったところかもしれないな。
「ううん、大丈夫です。ちゃんと仕事をしていますから」 笑いを堪えながら告げると、うーんと伸びをするような声を出してから小さく笑う。「じゃあ寂しくなって、電話してくれたのだろうか?」 ちょっとだけ緊張している俺を慮って冗談を言ってしまう恋人に、ちゃんと告げることができるだろうか。「……あのね、穂高さん。ついさっき職場に、お父さんから電話が着たんだ」「お父さんから?」 それまで漂わせていた雰囲気が、声色とともに変わっていく。「午前の便のフェリーに乗ってるみたいで、直ぐに帰るから顔を出さなくていいって言われてしまって……。でも今日は俺、どうしても仕事が抜けられないんです」「顔を出さなくていいなんて、随分と寂しいことを言ったものだね。本当は逢いたいだろうに」「穂高さん……」 俺の居場所を穂高さんが実家に置いてくれたお蔭で、お父さんがここに来ることができた。わざわざ顔を出す理由は何にせよ、素直に嬉しいって思う。「義理の息子になる俺が、千秋の分までお父さんの相手をしてみせるよ。全力でお相手して上手いこと滞在時間を引き伸ばせたら、お泊りさせることが可能かもしれないな」 どこかワクワクした声に、思わず吹き出してしまった。緊急事態だというのに、どうしてこんなに楽しげなんだろう。 電話で姿が見えないというのに、大人の余裕というか逆境への強さというか、そんなものが伝わってきた。すると俺の中にあった不安だった気持ちが、見る間に和らいでいく。「穂高さんの話術で、引き伸ばすことができるんですか?」「ん……、それなりに経験を積んでいるからね。それに千秋も、お父さんに逢いたいだろう?」 本当の親子じゃないことが分かってから、はじめて逢うことになる。正直、どんな顔をすればいいのか分からないけれど。「逢いたいです!」 顔を突き合わせて、ちゃんと言いたいと思った。今まで育ててくれてありがとうっていう、感謝の言葉を――。「それじゃあ決まりだな。こうしちゃいられない、ちゃんと顔を洗って正装しなければ」 ベッドの軋む音が受話器から聞こえてきた。本来なら夜の仕事に向けて、寝ていなければならないのに。「ごめんなさい。睡眠をとらなきゃ駄目なのに……」「いや、大丈夫だ。お父さんが来るという理由で、今夜の仕事はオフにしてもらう。晩ご飯、何を用意したらいいだろうか」 俺の
「『いつも息子がお世話になっております』って、渋い声で喋ってきてね。いい声しているなぁ、千秋くんのお父さん」 (どうしてお父さんが、ここに電話をしてきたんだ!?)「あの……職場なのに私用の電話…すみませ、ん」 頭が一気に混乱したせいで、焦りまくってしまう。受話器を取るのが、こんなに恐怖を感じるものになるとは――。「いいからいいから。離れて暮らしてる息子を心配して、わざわざかけてきたのかもねぇ。遠慮しないで、早く出てあげなさい」「はい、すみません……」 急かされてしまったので直ぐに出なければと、震える手で受話器を握りしめた。意を決してから一番のボタンを押す。「もしもし……千秋です」 緊張感丸出しの硬い声色で話しかけてしまった。耳に最初に聞こえてきたのはお父さんの声じゃなく、ザザーンという大きな波の音で、聞き覚えのあるそれにもしかしてという考えが頭を過ぎる。「もしもし。今、島行きの船に乗っている。たまたま北海道に行く仕事があったから、ついでに寄ってみようと思ってな」「そうですか」(――やっぱり。こっちに向かって来ているんだ)「ただ見に来ただけだから、勝手に見て直ぐに帰る。だから顔を出さなくていい。以上だ」 まくしたてるように言い放ち、俺が返事をする前に切られてしまった。 この時間帯のフェリーに乗っているのなら、午前中の便だろう。直ぐに帰るって、午後の便でトンボ帰りをするわけか。 顔を出すなと言われても今日は締め日なので、仕事を抜け出すことができないけれど。「すみません。私用の電話してきます。直ぐに戻りますので!」 周りに声をかけてから立ち上がり、事務所を出てそのまま外に飛び出した。 建物の裏側に回ると、青い海が目に映る。天気が良いから、いつもより青さに深みがあるな。頬を撫でる風が気持ちいいくらいだ。 同じ景色を眺めながら、お父さんはここに向かって来ているのか……。 ポケットに入れていたスマホを取り出し、深呼吸をしてから穂高さんにコールした。この時間なら、寝ているかもしれない。 電話で起こしてしまう申し訳なさを感じていると、無機質なコール音のあとに、愛おしい人の声が耳に聞こえてくる。「もしもし千秋……珍しいね。仕事中なのに電話をくれるなんて。さてはミスでもして、こっぴどく叱られたのかい?」 寝起きのような声色なのに咄嗟に俺の